大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和47年(行コ)12号 判決

岐阜市雪見町一丁目二一番地

昭和四七年(行コ)第一二号事件被控訴人、同年(行コ)第一八号事件控訴人(第一審原告。以下控訴人という。)

矢島実男

右訴訟代理人弁護士

平松勇二

同市千石町一丁目四番地

昭和四七年(行コ)第一二号事件控訴人、同年(行コ)第一八号事件被控訴人(第一審被告。以下被控訴人という。)

岐阜北税務署長

天野重夫

右指定代理人

服部勝彦

長谷正二

鈴木栄

渡辺宗男

森重男

右当事者間の所得額決定処分等取消請求控訴事件につき、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

一、昭和四七年(行コ)第一二号事件の控訴人の控訴に基づき、原判決主文第二項を取り消す。

二、右事件の被控訴人の請求を棄却する。

三、昭和四七年(行コ)第一八号事件の控訴人の控訴を棄却する。

四、訴訟の総費用は、第一二審を通じ、昭和四七年(行コ)第一二号事件被控訴人、同年(行コ)第一八号事件控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「昭和四七年(行コ)第一二号事件につき、控訴棄却、同年(行コ)第一八号事件につき、原判決主文第二ないし第四項をつぎのとおり変更する。控訴人の昭和三四年度分所得税について、被控訴人が昭和三九年三月一三日付で総所得金額を金一四、三五七、八三七円と決定した処分(ただし、その後の裁決で、金一一、九三二五一二円に変更された)のうち、金七、三三二、五一一円を超える部分を取り消す。控訴人の昭和三六年度分の所得税について、被控訴人が昭和四〇年三月一二日付で総所得金額を金二一、四八八、一三七円と決定した再更正処分のうち、金五、〇〇一、四六四円を超える部分を取り消す。訴訟費用は、右両事件につき第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、昭和四七年(行コ)第一八号事件につき、主文第三項同旨、同年(行コ)第一二号事件につき、主文第一、二項と同旨及び訴訟費用は、右両事件につき第一、二審とも控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否については、左記に付加訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

原判決二〇枚目表下段二行目「四三年」とあるのを「三四年」と訂正する。同二一枚目表下段七行目「¥81,448,440(円)」とあるのは「¥81,448,440(円)」の、同下段八行目から九行目にかけて「¥67,634,328(円)」とあるのは「¥67,634,326(円)」の、二二枚目裏下段二行目から三行目にかけて「金一一、九三二、五一一円」とあるのは「金一一、九三二、五一二円」の、三四枚目表1上から三行目「72,484,977」とあるのは「72,484,975」の、「¥67,634,328」とあるのは「¥67,634,326」の、同じく上から四行目「24,015,023」とあるのは「24,015,025」の、同じく上から六行目「11,932,511」とあるのは「11,932,512」の、三六枚目表3上から三行目各「67,634,328」とあるのはいずれも「67,634,326」の、同じく上から八行目「24,015,023」とあるのは「24,015,025」の、同じく上から九行目「11,932,511」とあるのは「11,932,512」の、いずれも誤記と認める。

控訴代理人は、当審における証人宮川博男、同深尾学の各証言及び控訴人本人尋問の結果を援用し、乙三一号証の成立は知らないと述べ、被控訴代理人は、当審において乙第三一号証を提出し、当審における証人青木金晴の証言を援用すると述べた。

理由

第一、控訴人主張の請求原因一及び二の事実については、当事者間に争いがない。

第二、昭和三六年度分の再更正処分の取消を求める訴の適否についての判断(同年度の更正処分についての訴の適否については、原判決の訴を却下する部分が確定)は、当裁判所も原判決の判断と同一であるから、原判決その部分(原判決四枚目表八行目から五枚目表一一行目まで)の記載をここに引用する(ただし、四枚目裏九行目「国税通則法」とあるのを、「昭和四五年法律第八号による改正前の国税通則法」と訂正する。)。

第三、昭和三四年度分の所得について。

当裁判所も、原判決と同一の事実を認定した上、控訴人の同年度分に関する本訴請求を理由ないものと判断する。その理由は、左記に付加訂正するほかは、原判決がその理由において説示するところ(五枚目裏二行目から八枚目裏三行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

原判決六枚目表一一行目「購入金額」とあるのを「東海ラジオへの譲渡代金」と、七枚目表六行目「石原円弥」とあるつぎに「の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第四号証」を加え、同じく「同前田長八の各証言」とあるのを「同前田長八の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第三号証」と付加訂正し、七枚目裏一一行目から八枚目表一行目にかけて、「ほかに当裁判所を首肯させるに足る的確な証拠がないので」とあるのを削り、その後に、「かえつて、原審証人岡田軍次の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第五号証、原審証人深尾学の証言及びこれにより真正に成立したと認められる同第六号証、原審証人山下勇の証言及びこれにより真正に成立したと認められる同第七号証、原審証人大野嘉久の証言及びこれにより真正に成立したと認められる同第一、二、一八号証によれば、控訴人主張のような金員の授受はなかつたと認められる。右認定に反する原審及び当審における控訴人本人尋問の結果ならびにこれにより成立の認められる甲第一六号証の記載は、前掲各証拠と対比して容易に信用しがたいので、」と加え、八枚目表八行目「社外役員になつたことが認められることからすると、」とあるのを、「社外役員になり、昭和三六年三月になされた本件二、三の土地の売買には関与していないことが認められ、これに反する原審における控訴人本人の供述は容易に信用できず、この点からすると、右金三、〇〇〇、〇〇〇円は、」と、八枚目裏二行目「金一一、九四二、五一一円」とあるのを、「金一一、九三二、五一二円」と訂正する。

第四、昭和三六年度分の所得について。

被控訴人の主張する総所得金額金二一、四八八、一三七円の根拠のうち、配当所得、給与所得の各金額については当事者間に争いがない。よつて、以下譲渡所得金一二、〇七七、八八一円、雑所得金八、八二七、五三八円の当否について順次検討する。

1  控訴人が昭和三六年三月四日東海ラジオに対し本件二、三の土地を譲渡したことについては当事者間に争いがない。

被控訴人がその譲渡価額は金六八、四六三、三七三円であると主張するのに対し、控訴人は金五七、三八三、〇〇〇円であると主張する。

成立に争いのない乙第八ないし第一〇号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき同第一一号証、原審証人南正義、当審証人宮川博男の各証言によると、東海ラジオは、控訴人から本件二、三の土地を金六八、四六四、三七三円で買い受け、昭和三六年三月四日金九、〇〇〇、〇〇〇円を、同月三一日には金五七、三八三、〇〇〇円を、同年四月二四日には金二、〇八〇、三七三円を控訴人に支払つていることが認められ、右認定と異なり、「昭和三六年三月四日の九、〇〇〇、〇〇〇円と同年四月二四日の二、〇八〇、三七三円は受け取つておらず、右金額の領収書には宛名を上様とのみ記載して実際に金員を受けとつた際の領収書とは区別した。」との原審及び当審における控訴人本人尋問の結果の一部は、前掲各証拠に照らしてとうてい信用しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そして被控訴人が、本件二、三の土地の譲渡価額を算出するに際し、これを換地後の新坪数により按分して計算したのは妥当な方法と考えられるから、抗弁二、4において主張しているように、本件二、三の土地の譲渡価額を、それぞれ金三八、一一九、八三五円、金三〇、三四三、五三八円と認定したのは相当である。

2  本件二の土地の控訴人の取得価額が金一三、八一四、〇七二円であることについては、当事者間に争いがない。

そこで、本件三の土地の控訴人の取得価額について判断する。

成立に争いのない乙第二八ないし第三〇号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一二、一三号証、原審及び当審証人青木金晴、原審証人浅井俊雄の各証言により真正に成立したと認められる乙第一五号証、右証人浅井俊雄の証言により真正に成立したと認められる乙第一四、二五、二六号証、原審及び当審証人青木金晴、原審証人浅井俊雄、同堀田昌明の各証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果(ただし、原審証人浅井俊雄の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中、後記信用しない部分を除く。)を合わせ考えると、本件三の土地は、堀田昌明、宮島辰之助、岡部清澄三名の共有(持分平等)であつたので、控訴人において、堀田昌明の持分を代金六、〇一六、〇〇〇円で買い受けてその代金を支払い、宮島辰之助、岡部清澄の持分については、浅井土地株式会社に買収方を依頼し、同会社に代金一五、五〇〇、〇〇〇円(実質的な代金一四、八一二、二〇〇円、仲介手数料としてその三%である金四四四、三六六円のところ、協議上の上、最終的に代金一五、五〇〇、〇〇〇円となされた。)を支払つたことが認められ、右認定に反する原審証人浅井俊雄の証言とこれにより成立の認められる甲第一一号証、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果は、前掲各証拠と対比して、容易に信用しがたい。ゆえに、本件三の土地の取得価額は金六、〇一六、〇〇〇円と金一五、五〇〇、〇〇〇円の合計金二一、五一六、〇〇〇円である。この点についての控訴人の主張は採用できない。

3  控訴人は、被控訴人が本件三の土地の譲渡に関する所得を雑所得と認定したのは違法であると主張する。

原審証人浅井俊雄の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果により、真正に成立したと認められる甲第一四号証、成立に争いのない乙第二〇号証、原審証人青木金晴、同南正義、同浅井俊雄の各証言並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果を総合すると、東海ラジオは本件一の土地を買い受けると、さらに隣接する本件三の土地の買収を、ひきつづき控訴人に依頼していたところ(本件三の土地を加えることによつて当初希望していたような矩形の土地になる。)、その後本件一の土地は不要になり、三栄商事株式会社に売却しようということになつて、本件一の土地だけでは道路に接しているのが一面にすぎないところから、これに隣接する本件二、三の土地を取得したうえで売却すれば有利であると考え、昭和三五年一一月ころ、たまたまそのころ東海ラジオの代表取締役に就任した南正義からも本件二の土地については譲渡を、本件三の土地については買収を控訴人に依頼していたこと、本件三の土地は堀田昌明、宮島辰之助、岡部清澄の三名の共有であり、そのうちの堀田昌明に対しては、控訴人が直接その交渉にあたり、昭和三六年三月三一日控訴人が名義上のみの買受人として坪当り三二〇、〇〇〇円の計算で売買契約を成立させ、宮島辰之助、岡部清澄の分については、控訴人からさらに浅井土地株式会社に買収を依頼し、その代金は既認定の東海ラジオから控訴人に支払われた金額のなかから、控訴人が同会社に支払つたこと、堀田昌明の持分については昭和三六年四月三日、宮島辰之助、岡部清澄の各持分については同年五月四日それぞれ各人から直接に三栄商事株式会社に所有権持分の移転登記がなされていることが認められる。

右事実によると本件三の土地を控訴人が一時的にもせよ自分の物にしようとした意思がなかつたことは明らかであつて、控訴人の行為は東海ラジオのために、同ラジオと堀田昌明外二名の者との間の売買契約を仲介したものと解するものを相当とする。すると本件三の土地に関し、控訴人に生じた所得を被控訴人が旧所得税法九条一項八号の譲渡に該当せず、同項一〇号に規定する雑所得と認定したのは首肯しうるところである。よつてこの点に関する控訴人の主張は理由がない。

4  控訴人は、本件二、三の土地の譲渡に関しても、大野嘉久と深尾学に対して、合計金八、一〇〇、〇〇〇円を、浅井土地株式会社に対して金四八〇、〇〇〇円を支払つているので、右金額を必要経費として右譲渡による利益から控除されるべきであると主張する。

前掲乙第一五、二六号証、原審証人青木金晴、同浅井俊雄の各証言、原審における控訴人本人尋問の結果(ただし、証人浅井俊雄の証言及び控訴人本人尋問の結果中、後記信用しない部分を除く。)によると、控訴人は、浅井土地株式会社に対し、本件三の土地の買収に関する仲介手数料として、右土地の実質的な代金一四、八一二、二〇〇円の三%である金四四四、三六六円を支払つたが、これは右代金と合わせ、結局前認定の土地取得価額金一五、五〇〇、〇〇〇円としたことが認められるから、仲介手数料はこの取得価額に含まれるものといわなければならない。右認定に反する原審証人浅井俊雄の証言、原審における控訴人本人尋問の結果は、前掲各証拠と対比して、容易に信用しがたい。

さらに、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果の一部には、本件二、三の土地の譲渡に関しても、大野嘉久外の役員達に少くとも金八、一〇〇、〇〇〇円を渡した旨主張する部分があり、前掲甲第一六号証にも右主張を肯認するかのような記載がある。そうして、本件三の土地については、控訴人はその売買の仲介をしたにすぎないにもかかわらず、その取得価額と東海ラジオへの譲渡価額の金額の間に著しい隔たりがあること、また原審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一二号証によると、昭和三六年四月一八日控訴人が森田晋名義で額面三、〇〇〇、〇〇〇円の自己宛小切手を深尾学の妻である野田昌子に裏書譲渡していることが認められることからすると、あるいは東海ラジオの重役達との間に金銭のやりとりがあつたのではないかとの疑念が全く生じないわけではない。しかし原審及び当審証人深尾学、原審証人大野嘉久の各証言と照らしあわせると、未だ控訴人主張の事実を認めるに足りないといわねばならない。

第五、以上のとおりであるから 控訴人の昭和三四年度分の総所得額を金一一、九三二、五一二円(当初の決定額は金一四、三五七、八三七円)とし、また、昭和三六年度分の総所得額を金二一、四八八、一三七円(本訴において被控訴人は計算違いにより、金二一、四八七、九一九円と正した。給与所得金四五〇、五〇〇円、配当所得金一三二、〇〇〇円、譲渡所得金一二、〇七七、八八一円、雑所得金八、八二七、五三八円)とした被控訴人の各処分は、いずれも相当と認められ、違法な点は見当らない。

してみると、控訴人の請求は、昭和三四年度分、昭和三六年度分ともすべて理由がないから棄却されるべきであつて、原判決中、昭和三四年度分の請求を棄却した部分は相当であるが、昭和三六年度分の請求の一部を認容した部分は不当である。

よつて、控訴人の控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人の控訴は理由があるから、これに基づき、原判決中、昭和三六年度分の請求の一部を認容した原判決主文第二項を取り消し、控訴人の請求を棄却することとし、民事訴訟法三八四条、三八六条、八九条、九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柏木賢吉 裁判官 菅本宣太郎 裁判官 杉山忠雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例